メニューを見直し
店のテラスがきれいになって、店内も厨房も明るく清潔になると、お客さまも入りやすくなったのか、店は活気を取り戻しました。これまでの常連さんに加え、店の前を通った人の目に止まって入って来たり、そこからさらに口コミで広がったりして、掃除の疲れも吹き飛ぶうれしさでした。お金をかけて大きなリニューアルをしたわけではないけれど、この場所で16年蓄積された汚れを落とし、自分たちの手でコツコツと磨き、新しい空気を吹き込めば、店も息を吹き返すのだとわかりました。
さらに、メニューをわかりやすく作り直して外から見えるようにしたり、店先でお弁当販売も始めました。このお弁当が周辺で働く人たちに大人気を博し、ランチタイムだけで1日80個ほど売れるようになったのです。
また、以前は「コース」というと母の「お任せ」で、その日によって作るものが変わっていました。常連さんならまだしも、新しいお客さんにとっては頼みにくい。そこで、内容の異なる2〜3種類のコースをつくり、内容も明確にメニューに提示することにしました。
ドリンクの種類も少なかったので、定番のドリンクのほかにカクテルなども増やして、お客さまの好みで選べるようにそろえました。ただ、カクテルとなるとカタカナのメニュー表記が多くなり、中国人のスタッフにしてみると読みにくい。漢字は読めてもカタカナはとても難関なのです。そこで、メニューにあるお酒ひとつずつに番号をつけ、注文時に間違えないようにしました。カクテルのレシピも、使うお酒を番号でわかるようにして、キッチンにあるお酒の瓶にも同じ番号をつけておけば、誰でも間違いなく作ることができます。
ドリンクが増えれば飲み放題のコースを作ることができますし、そうすると宴会として利用してくださるお客さまも増えます。宴会利用は、大きな売り上げアップにつながりました。
味へのこだわりと効率化
もちろん、味にもこだわりました。母がひとりで料理をこなしていたときは、ごはんを炊くのも料理の味つけも、長年の「勘」に頼っていました。それがうまくいく時があれば、いかない日もある。ましてや、別の人が代わりに作る日は、母とは違った味になってしまうこともある。
チャーハンの美味しさを決めるごはんは、母の「勘」ではなく、誰がやっても同じように美味しく炊けるように工夫しました。お米屋さんから納入してもらう時点で、これまでより小さい5キロ袋にしてもらい、それを一度に炊くことにして、水の量も決めておけば、毎回ブレることはありません。大袋で買っていたときのように、毎回計量する手間も省けます。
お米は、チャーハンに適したものをいくつも食べ比べて、その中から滋賀県産のキヌヒカリという品種を使っています。一般には美味しいとわれるコシヒカリなどは、粘りが強くてチャーハンには向かないので、炒めたときに程よくパラっとなるものが理想的なのです。
口コミサイトなどで「ご飯が美味しい」というコメントが増えていったのは、その後からです。
餃子の提供のかたちも、少しずつ変わっていきました。ランチのいちばん人気は「チャーハンと水餃子」のセットですが、それ以外のランチメニューにも名物の水餃子をつけていました。でも、忙しいランチタイムでは、提供する料理に合わせて、あらかじめ茹でておいた餃子を温め直すという方法を取らざるを得ません。食べるまでに少しでも時間が経つと、ふやけたり伸びたりして、美味しさは半減してしまいます。つるんとした餃子の皮が自慢の楽仙樓なのに、これでいいのか。長い間頭を悩ませていたことでしたが、中途半端なものを提供するくらいならと、「チャーハンと水餃子」セット以外は、セットに餃子をつけるのをやめました。その代わり、プラス160円(現在は250円)で茹でたての水餃子2個をオーダーできるようにしたのです。
ランチタイムは、4人がけのテーブルを2人ずつ×2つに変更するなどして、多くのお客様が入るように、さらにスタッフが動きやすくなるように、変更もしました。
こうしたすべての改革は、私の力だけではとうてい叶うことではなく、家族や従業員の協力はもちろん、かつて働いていた会社とのご縁も大きく働きました。
店を継ぐ直前まで勤めていた、東大阪の傘のメーカーには、テラスのテーブルにかけるクロスを作ってもらいました。それまで屋外にあったためにボロボロだったクロスですが、傘に使う防水生地に取り替えれば、濡れても汚れても、簡単な手入れできれいに保つことができます。楽仙樓のイメージカラーとなる黒とエンジ色を使ってデザインしてもらい、店先でいちばん最初に目に入る、象徴的なテラスのテーブルクロス。私は大好きでした。